こんにちは、eURO2023です!
みなさんは、夜寝ている間にトイレに起きることはありますか?
「最近、夜中に目が覚めてトイレに行くようになったな…まあ、歳だから仕方ないか」 そう思って我慢されている方も多いのではないでしょうか。
実は、医学の世界ではここ数年で「夜間頻尿」に対する考え方が大きく変わってきています。
これまでは単なる「膀胱のトラブル」と考えられていましたが、2024年から2025年にかけての最新研究で、
「夜間頻尿は、睡眠や心臓、脳など、全身の健康状態を映し出す鏡である」
ということがわかってきました。
今回は、最新の医学データをもとに、夜間頻尿を引き起こす正体と、今日からできる対策についてわかりやすく解説します。
夜間頻尿は「全身からのサイン」

国際的な定義では、夜寝てから起きるまでに排尿のために「1回以上」起きることを夜間頻尿と呼びます。 60歳以上の70%以上の方が経験しており、決して珍しいことではありません[1]。
しかし、最新の研究では、これが単なる老化現象ではなく、以下のような全身のバランスと深く関わっていることが強調されています。
- 睡眠の質
- 心臓や血管の負担
- 体内の水分バランス(腎臓の働き)
つまり、夜のトイレを減らすことは、ただ睡眠不足を解消するだけでなく、全身の健康を守り、健康寿命を延ばすことにつながるのです。
「睡眠不足」と「トイレ」の悪循環
日本で行われている大規模な調査「ながはまスタディ」の2025年の最新解析で、当たり前のようですが面白い結果が出ました[2]。
研究結果:
- 睡眠不足は、将来の夜間頻尿と関連(オッズ比[OR]:1.85、p<0.001)。
- 夜間頻尿は、将来の睡眠不足と関連(OR:1.90、p<0.001)。
「卵が先か鶏が先か」のようですが、睡眠不足と夜間頻尿は相互に悪影響を及ぼす可能性が指摘されました。
また、特にベースラインに睡眠不足があると、背景因子を調整した後では女性(OR = 1.44、p = 0.004)と50歳未満のグループ(OR = 2.82、p < 0.001)で夜間頻尿の発症と有意に相関関係がありました。
特に働き盛りの方々は、睡眠を適切に取ることが重要ですし、夜にトイレに行かなくて済むよう生活習慣をコントロールしていくことの重要性も改めて示された形です。

またOkayamaらは、夜間頻尿のある高齢患者21名に対して、睡眠–覚醒活動を測定するウェアラブルデバイスを使用して、それぞれの適切な就寝時間を推定しました。
すると、平均就寝時刻は21:30から22:11に変わりました(p < 0.01)。つまり、より遅い就寝時間が推奨された形です。このような介入を行うことで、
研究結果:
- 夜間の尿回数が0.90回(非介入は−0.01回、p < 0.01)減少
- 夜間尿量は105.6mL(非介入は4.4 mLの増加、p = 0.04)減少
- 就寝後夜間第一尿(覚醒)までの時間は62.8分(非介入は12.7分の延長、p < 0.01)延長
高齢者の方は、特に眠たくなくても、睡眠時間を確保しようと早くからベッドに入りがちです。しかし高齢になると、若い頃に比べて必要な睡眠時間は少なくなることがわかっています。
Okayamaらの研究結果はそれを裏付けるものであり、大変意義深いです。必要以上に眠り過ぎるのではなく、睡眠時間を適切に調整することが、結果として夜間頻尿および睡眠の質の両方を改善する可能性があります。[3]
知っておきたい「隠れ高血圧」のリスク

2025年に発表された「HI-JAMP研究」という日本の研究では、夜間頻尿と血圧の関係性について述べられています[4]。
通常、血圧は寝ている間に下がって体を休めます。しかし、夜トイレに起きる回数が多い方は、トイレに動いていない睡眠中の血圧(Sleep Blood Pressure)そのものが高くなっている傾向がありました。
研究結果:
- 夜間1-2回トイレに行く方の収縮期血圧:4.7 mmHg増加(P < 0.001)。睡眠中の収縮期血圧は4.1 mmHg増加(P < 0.001)。
- 夜間3回以上トイレに行く方の収縮期血圧:9.6 mmHg増加(P < 0.001)。睡眠中の収縮期血圧は8.5 mmHg増加(P < 0.001)。
夜間頻尿の程度が強いと、それだけ夜間の血圧が高くなる傾向になることがわかりました。夜間頻尿は、知らず知らずのうちに血管や心臓に負担をかけているかもしれません。
逆に言えば、夜間頻尿を改善することで、血圧管理の面でもメリットがある可能性があります。
今日からできる! 自分でできる対策

夜間頻尿については、まず生活習慣を整えることが大切です。
様々な生活習慣に関する改善項目がありますが、その中から2025年に発表された対策について述べたいと思います。
① 塩分は「控えめ」が基本
塩分を摂りすぎると、喉が渇いて水を飲むだけでなく、腎臓が余分な塩分を排出しようとして尿量そのものを増やしてしまいます[5]。
特に夕食の塩分量に注意し、1日トータルでの減塩(WHO推奨は5g未満)を意識することが、夜間の尿を減らす近道です[6]。
少し前の研究ですが、Matsuoらにより減塩の夜間頻尿に対する効果が検証されました[5]。
減塩に成功した患者では、夜間頻尿が2.3回(中央値)から1.4回に改善しました(P < 0.001)。
また、夜間頻尿だけでなく尿意切迫(突然に尿が我慢できなくなること)、昼間の尿回数に関する質問票に改善が見られました(P < 0.001)。さらに、生活の質のパラメータも有意に改善しました(P < 0.001)。一方、減塩に成功しなかった患者は研究期間中にいかなる症状も改善しませんでした。
以上のように、減塩が高血圧などの生活習慣病のみならず、夜間頻尿にも効果を発揮することが示されました。
② 日中の「活発な運動」
2025年の大規模な研究で、しっかりと体を動かす(激しい身体活動を行う)人は、そうでない人に比べて夜間頻尿のリスクが低いことがわかりました[7]。
Qiangらは25,000人にアンケートを行い、身体活動レベルと夜間頻尿の関係を調査しました。
複数の変数を調整後、激しい身体活動は夜間頻尿のリスクが低いことと関連していました(OR = 0.92, P = 0.007)。また、激しい活動に従事した参加者は、夜間頻尿エピソードが少ないとも報告しました(夜間頻尿1-2回:OR = 0.96, P = 0.02; 3-4回:OR = 0.80, P < 0.001; 5回以上:OR = 0.73, P = 0.007)。
運動はなぜ夜間頻尿に良いのでしょうか?睡眠が深くなるほか、日中の腎臓への血流が良くなり、夜になる前に余分な水分を尿として出し切れるためと考えられています。
③ 寝る時間を少し遅くしてみる
高齢の方に見られるのが「不適切な早寝」です。例えば19時や20時に布団に入ると、どうしても夜中に目が覚めてしまい、そのついでにトイレに行きたくなります。
先ほど紹介したOkayamaらの論文でも、就寝時間を平均40分遅らせるだけで、尿の回数が減り、まとまって眠れる時間が1時間ほど延びたと報告されました[2]。
まとめ
夜間頻尿は、「歳のせいだから我慢するもの」ではありません。 「体からのSOS」であり、「健康を見直すきっかけ」になるかもしれません。
ぐっすり眠れることは、明日への活力になります。 生活習慣を少し見直してみて、それでも気になる場合は、私たち専門医に気軽にご相談ください。
参考にした文献・HP
- Xiang-Yi Hou et al. Nocturia: An overview of current evaluation and treatment strategies. World J Methodol. 2025 Dec 20;15(4):104696.
- Negoro H et al. Risk analyses of nocturia on incident poor sleep and vice versa: the Nagahama study. Sci Rep. volume 13: 9495 (2023)
- Okumura Y et al. Adjustment to an Appropriate Bedtime Improves Nocturia in Older Adults: A Crossover Study. Int J Urol. 2025 Apr 26;32(7):870–876.
- Tomitani N et al. Effect of Nocturia and Sleep Quality on Sleep Blood Pressure: The HI-JAMP Study. Hypertension. 2025 Dec;82(12):2208-2217.
- Matsuo T et al. Effect of salt intake reduction on nocturia in patients with excessive salt intake. Neurourol Urodyn. 2019 Mar;38(3):927-933.
- Alwis US et al. Dietary considerations in the evaluation and management of nocturia. F1000Res. 2020 Mar 5;9:F1000 Faculty Rev-165.
- Qiang Y, et al. Association between physical activity and nocturia: A cross-sectional study using National Health and Nutrition Examination Survey 2007-2016. J Int Med Res. 2025 Nov;53(11):3000605251394177.


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