夜間頻尿②

泌尿器科

こんにちは、e-URO2023です!

遅ればせながら、「夜間頻尿 第2回」を記載しました。

⇒前回までの記事はこちら

前回は「夜間頻尿の定義」、そして夜間頻尿で悩んでいる患者さんがが非常に多いというお話をしました。

夜間頻尿の原因は非常に多岐にわたります。

我々泌尿器科医も、原因がはっきりしなかったり、複数の原因をもっている患者さんを沢山経験します。

ただ、大きく分けると夜間頻尿の原因は以下の3つに絞ることができます。

夜間頻尿の原因

  1. 多尿・夜間多尿
  2. 膀胱蓄尿障害
  3. 睡眠障害(不眠症)
ショー・ベン

 この中で、一番多い原因が①の「夜間頻尿」だ。

一番原因は多いけど、病態は複雑でわかりにくいのが「多尿」。

今回はできるだけザックリと、多尿について説明していきます!

多尿・夜間多尿とは

多尿とは、文字通り「尿が多い」ということです。

24時間の尿量が40mL/kg(体重)を超える場合、多尿と定義されています。

体重60kgのヒトだと、1日に2400mL以上尿が出ていると、多尿です。

一方、多尿ではないものの、夜間寝ている時にのみ尿量が増える場合は「夜間多尿」といいます。

夜間多尿の定義として、60歳以上のヒトで「夜間多尿指数が33%を超える」場合を夜間多尿と定義することが多いです。

夜間多尿指数は、夜間尿量を24時間の尿量で割った割合で計算されます。

1日に2000mLぐらいおしっこが出るヒトの場合、夜間に660mL以上おしっこが出ると夜間多尿になります。

多尿、夜間多尿
  • 多尿:24時間の尿量が体重あたり40mL以上
  • 夜間多尿:夜間多尿指数(夜間尿量/24時間尿量)が33%以上(60歳以上の場合)

多尿は、「排尿日誌」という記録を患者さんにつけてもらって診断します。

でも排尿日誌の詳細については、ちょっとややこしいので今回は省きますね。

多尿

多尿は文字通り、「尿が多い」ということ。

ショー・ベン

 尿が多い原因として、実は最も多いのが「水の飲み過ぎ」だ。

脳梗塞や心筋梗塞になったことのある方は、主治医から「水を多く摂りましょう」と指導を受けていることでしょう。水分を取ることで血が薄くなって、詰まりにくくなるだろうと考えられているからです。

ここで、一つの疑問が生じます。

ショー・ベン

 水を飲めば飲むほど、脳梗塞や心筋梗塞になりにくくなるのか??

じつは、

水分を沢山とることで、脳梗塞を予防できるというエビデンスはありません。

以下のことが、研究からわかっています。

  1. 脳梗塞や心筋梗塞を起こした患者さんでは血液粘稠度が高い(血液がドロドロ)
  2. 脱水は血液粘稠度を増し(血液がドロドロ)、脳梗塞を引き起こす原因となりうる3)4)
  3. 高温で乾燥している天候では血液粘稠度が高くなる5)
  4. お風呂に使っていると血液粘稠度が変化して、脳梗塞や心筋梗塞のリスクになる6)
  5. 早朝は血液粘稠度が高くなり、脳梗塞や心筋梗塞が起こりやすくなる4)

Sugayaらによる血液粘稠度と水分摂取の関係を調べた論文が日本から出ています7)

この報告では3つの試験が行われました。

①31歳から51歳の健康な成人ボランティア6名に、5分間で1Lの水道水を摂取してもらい、水分摂取後1,2時間後に採血して血液の粘稠度を測定しました。

②31歳から53歳の健康な成人ボランティア6名に、朝6時から夜10時までの間に4時間ごとに採血を行い、それぞれの血液粘稠度を測定しました。

③31歳から75歳までの健康な成人ボランティア21名に対し、水道水を最低2L、毎日飲んでもらい、研究前後の早朝空腹時に採血を行い血液粘稠度を比較しました。同時に、研究前後の排尿記録もつけてもらい、排尿状態についても調査しました。

結果は以下の通りでした。

研究結果

①1Lの飲水後、1時間で平均3.8%の粘稠度低下、2時間で平均6.0%の粘稠度低下を認めた。

②1日の中で、同じヒトでも血液粘稠度に差があり、平均4.8%の日内変動であった(最低4.5%、最高10.7%の日内変動)。

1週間、2Lの水道水を飲み続けても、早朝の血液粘稠度に変化はなかった。しかし日中の排尿回数は中央値7.4回から10.3回、夜間の排尿回数は中央値0.9回から1.7回(特に65歳よりご高齢の患者さんでは、夜間1.3回から2.6回の増加)に増加し、ともに有意差を認めた。

つまり、1日2Lの飲水では血液サラサラにはならず、むしろ多尿になり、夜間頻尿を悪くさせる

という結果になりました。

当然ですが体に入る水分が多くなると、出る水分(つまり尿)の量も増えます。

ショー・ベン

当然だが、体に入る水が多くなると、出る水(つまり尿)も多くなる。

水分を摂りすぎても、結局はおしっことして出てしまうので、あまり脳梗塞や心筋梗塞の予防にはならないということですね。

しかも水分の取り過ぎは、場合によっては水中毒(低ナトリウム血症)のリスクにもなり得ます。

ご高齢の方は、ただでさえ低ナトリウム血症のリスクがあるので注意が必要です。

(これについては機会があればまた述べます)

そして、一番問題(と泌尿器科医が考えている)なのは、水の飲み過ぎで頻尿がひどくなるということです。

実は、「夜間頻尿」は死亡リスクを上昇させるということがわかってきているのです。

これについては次回、詳しく述べさせていただきます。

参考文献

1) Weiss JP et al. Excessive nocturnal urine production is a major contributing factor to the etiology of nocturia. J Urol. 2011 ;186(4):1358-63.

2) Lowe GD et al. Blood viscosity and risk of cardiovascular events: the Edinburgh Artery Study. Br. J. Haematol. 1997;96:168-173.

3) Yasaka M et al. Predisposing factors of recurrent embolization in cardiogenic cerebral embolism. Stroke. 1990;21:1000-1007.

4) Nadav L et al. Stroke in hospitalized patients: are there special risk factors? Cerebrovasc Dis 2002;13:127-131.

5) Kolar J et al. The effect of a hot dry climate on the haemorrheology of healthy males and patients with acute myocardial infarction. J Trop Med Hyg. 1988;91:77-82.

6) Kubota K et al. Acute myocardial infarction and cerebral infarction at Kusatsu-spa. Nippon Ronen Igakkai Zassi 1997;34:23-29.

7) Sugaya K et al. Change of blood viscosity and urinary frequency by high water intake. Int J Urol. 2007;14:470-472.

イラスト・画像元

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